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何が怖い? 6

Author: 花室 芽苳
last update Last Updated: 2025-07-08 09:54:42

「御堂が私の事を好きだと心から想ってくれているのなら、もう私の事は放っておいて欲しい。お願いだから、これ以上私を追い詰めないで!」

 私が御堂の気持ちに、本心で応えることが出来る日はきっと来ない。私はそれを御堂が納得してくれるまで、何度だって説明するつもりでいた。

 なのに……

「紗綾、お前にどんな過去や事情があるかを離れていた俺は知らない。だが、逃げているばかりで問題が解決する時が来るとは限らないんだぞ?」

 そんな御堂の知ったような言葉についカッとなる。確かに彼の言う通り私はこの問題にいつまでも向き合えず、過去を思い出さないように逃げてばかりなのだから。

 でもそれをハッキリと人から指摘されるのは……正直、とても辛くて。

「そんな簡単に言わないで! 御堂だって、本当の私を知れば……」

 「幻滅するわよ」そう言いたいのに、御堂の鋭い視線が、それ以上私に喋らせようとしない。

 どうして……貴方はいつも、私にはそんな視線ばかり。

「俺はどんな紗綾でも受け止める、だからお前が自分自身を傷付けようとするな。大体そう簡単に諦められる程度の想いなら、二十年もお前を探してはいない」

「二十年って……まさか、離れてからずっと私の事を探してたの?」

 私たちが離れた理由は【かんちゃん】が引っ越したからなのだが、それでもしばらくは手紙のやり取りをしたりもしていた。

 だけれど……

「手紙が来なくなったと思ってたら、今度は紗綾がどこかへ引っ越していたからな。それでも俺は、ずっとお前からの手紙を待ってたが」

「御堂……」

 「子供の頃のオレには、そうする事しか出来なかったからな」と、とても小さな声で御堂が呟いて。

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    「御堂がそんなに想ってくれたって、私なんかじゃ……」 私が恋に憶病になっているのは、決して御堂のせいじゃない。だけど簡単に彼の好意を受け入れる事はどうしても出来なくて。  だけど、そんな私でも御堂は当然の様に受け入れようとしてくれてる。普通だったら、こんな女は「面倒くさい」の一言で終わってもおかしくないのに。「なあ紗綾、俺を使ってもいいんだ。お前がもう一度恋愛が出来るようになるように、俺を利用すればいい」 「御堂を……利用って?」 いったいどういうことなのか? 御堂は本気で私を付き合いたいのではなかったの? 予想外の言葉に、段々と頭がこんがらがってくる。「ああ、俺以外の男で試すことは許せない。それならば、最初からこうすれば解決することだからな」 「どうして……? そんなことをして、御堂に何のメリットがあるの?」 そんな私を見て、御堂は「フン」と鼻で笑う。紗綾は何もわかってないな、とでもいうように。「たとえお試しであれ、付き合えば紗綾に俺の事を好きにさせる自信はある。その後、互いが納得してきちんとした交際に変えればいいだけだ。いいか、紗綾。お前との距離を縮めることが出来るのなら、俺はなんだってする」 御堂の鋭い瞳に見つめられて、私は……「でも私はまだ、御堂をそんな風には……」 「紗綾、お前は頭でゴチャゴチャ考えすぎなんだ。いいから、少し黙ってろ」 御堂から乱暴に、私の乾いた唇を彼のそれで塞がれる……今までの相手のように、心からの嫌悪は感じなくて。  もしかして、本当にこの人とならば……そんな気持ちが、全く出てこないわけじゃない。  

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     ……私、次第? それは、私が御堂の要望に応えられるかという事なのだろうか?  御堂は確か、私の事を「迎えに来た」と言っていたはず。それがどんな意味で私に告げられた言葉なのか、彼の本心はまだよく分からない。  けれども彼が私に思い出して欲しいのは「昔の約束」で、それは御堂にとってはとても大切な事。  そして最後の、御堂からの目隠しのキス。あの時は深く考える余裕もなかったけれど。  もし、あの行為が御堂にとって恋愛感情を含むものだとしたならば――? ……イヤ! あの時のような酷く醜い感情に振り回されるなんて、私は二度と耐えられない。  それに過去にあんな事をしてしまった私が、今さら【恋】をするなんてことは決して許されないはずだから。「どうした、紗綾? お前、顔が真っ青……っ⁉」 私に向かって伸ばされた御堂の手を、気付けば思い切り叩いていた。今、彼に触れられるのがとても怖くて。  真っ黒な自分の心の中を、彼の真っ直ぐな瞳に見透かされたくなかった。「触らないで、御堂! 私、本当は……」 「紗綾……?」 思い出したくない事を思い出してしまい、凄く胸が苦しいけれど。でもこれ罰なんだって、あの日に大事な人を傷付けてまで自分を優先した罰。  そう、だから私は……   「もし御堂が私に恋愛感情を持っているのなら、今すぐ諦めて。私はこれから先、誰も好きになったりはしない」 「……俺が、そんな言葉だけで納得すると思うのか?」 やっとの思いで御堂を見つめそれだけ伝えると、逆に誤魔化しを許さない言わんばかりの鋭い目つきで睨み返される。  ……分かってる、こんな言葉だけじゃ貴方が納得しないってことくらい。

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     私が御堂から逃げようとしてるから彼は私が逃げないように、あんな風に挑発的に言ったに違いない。『俺が怖いか、紗綾』 怖いわよ! 怖いに決まってるじゃない。それなのに、あなたの呼び出しに私はきっと応えてしまう。  逃げたくて堪らないのに、あなたが私にどんな話をしてくれるのか気になって仕方ないの。  ……もしかしたら昔の頃の様な優しい【かんちゃん】と、穏やかな思い出話が出来るんじゃないかって。  小さなメモ紙をもう一度ポケットに入れると、ファイルを探して『分かりました』というメモを挟んで御堂に渡す。彼は柔らかく微笑んで、普段通りに礼を言っただけだった。 ……そんな私たちの隠れたやり取りをジッと見ている人がいたなんて、その時は気付きもしなかったのだけれど。  私はこの時すっかり忘れてしまっていたのだ、御堂が女子社員にとても人気だと言う事を。 昼休みになり一人でお弁当を食べていると、食堂で昼御飯を済ませたらしい御堂が一人で戻って来た。「紗綾は弁当か?」 「ええ、夕飯の残り物だったりで手抜きですけどね」 そう、自分一人が食べる分だもの。朝からそんなに手間暇かけては作っていない。それでも御堂は意味深に私のお弁当をジッと見てる。「いや、美味そうだ。そう言えば俺は紗綾の手料理を食べたことは無いな」 「もう、何を言ってるのよ? 一緒に居たのは私達がこんな小さな頃だったじゃない」

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     出来るなら御堂と関わらないよう仕事をする事が一番いいのだけれど……自分も主任という立場で。課長代理の彼と関わらずに仕事をするなんて、どうやっても無理がある。  それにそんな都合のいい関係性を、御堂が利用しないわけがない。「長松さん。課長と行ったミーティングの内容を、ちょっと確認させてもらいたいんだけど」 私の予想は外れることなく、何かあるたびに御堂は私を呼ぶ。  でも、確かに私に聞くのが一番いいだろうという内容を確認してくるから、文句を言う事も出来ない。「課長。その事についてでしたら、内容を纏めたファイルがありますので持ってきます」 「ありがとう、やはり長松さんはとても頼りになるね」 そう言って穏やかな笑みを浮べる御堂は昨日とは別人のよう。 二人きりの時もこの笑顔なら、そんなに怖くはないのに……「ありがとうございます」 私はお礼を言って御堂のデスクからから離れようとする。 すると急に伸びてきた大きな手に自分の右手首を捕まれて。「…… ここ、ゴミが付いてるよ?」 御堂が私の上着のポケットに触れて、紙くずを取る。 思わず身体がびくりと震えて、本能的に後ろに下がろうとしてしまう。「俺が怖いか、紗綾」 誰からも見えない位置で、御堂がニヤリに笑う。 まるで怖がる私を面白がっているかのように。「…… っ、失礼します!」 御堂から離れたくて、私は急いで自分のデスクへと戻る。  ドキドキする胸を抑え、深呼吸するとポケットからカサリと音がする。 指を伸ばして中を確かめると、いつの間に入れられたのか…… 小さなメモ紙があって。【今日も同じ時間に、あの場所で】

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